俺の妹がこんなに可愛いわけがないというシリーズが終わるわけがない

伏見つかさ大先生の大作である
俺の妹がこんなに可愛いわけがない』というライトノベルが、
今月に発売された12巻をもって、堂々完結した。

してしまった。


私をライトノベルの世界へと呼び戻し、引きずり込んだ大切な一作であり、
4巻を購入したその日に家で読み終え、すぐさま5巻を買いに行くというど嵌りっぷりをした事も今では懐かしい。

11巻のあとがきにて「次で完結」の文言を見たときには、
まさに「心にぽっかり穴が開いた」という喪失感を味わい、
人生の大切な友達、あるいは伴侶を失ったような気持ちだった。

……いやまあ、実際には失う友達はいないし、伴侶もいないんだけどね。
こんな感じだろうな、という意味ね。想像ですよ。


アタクシってば、多くのライトノベルは、
多くの連載漫画と同様「ソープオペラ形式」を取っている、
と思っているのです。

つまり、主要キャラクタを登場させ、その人物たちがくっついたり離れたり、
何か問題ごとを起こすことで話を転がしていく、
連載開始時から「終わりに向かって収斂していかない」作りになっていることが多いと思うのデス。

 ※より正確に記するならば、
  ライトノベルの場合は2巻以降からその形式に代わっていく場合が多い。
 ※もちろん、その形式自体に是非はなく、
  初めから終わりまでの構造が決まっているから偉いというわけでもない。
  どんな形式を用いるにせよ、きっちりと描ききっているならば、
  それはどれも素晴らしい作品に成り得るのデス。


そして、この『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』というシリーズも、その形式に則り、
かつその形式の持つ力を十二分に発揮した超大作である! と私は豪語するわけですな。


なぜならば、私はこのシリーズに登場する人物が、女子中学生や女子高校生たちが、
もう好きで好きで堪らないの!

……と、文章だけで見れば、すぐさま私の両手首にやや重みのある金属の輪が嵌りそうだけれど、
それぐらいこのシリーズに嵌ってしまった、ということね。


受け手側にここまでの感情を抱かせたなら、それはもう作り手側の勝ちであり、
受け手はただただ続編を待ち望むしかないのだ。
そして、永遠に続く惚れた腫れたを、主人公たちと共に味わっていきたいのだ。


そんな『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』というシリーズが、
この12巻で終わってしまった。

受け手側も、この結末を見て、様々な思いを巡らせたことだろう。
私は、実に誠実に、堂々と作品を終わらせたと思っていて、
だからこそ伏見つかさ大先生に、最大級の賛辞を送らせて頂きたい。


「いやさあ、もうさ、全員とくっ付くハーレムエンドで良いよ! なあなあにしよう! なあなあ万歳!」
と思っちゃったのは、正直なところ。

それでも十分に、作品を「終わらせる」ことは出来たわけである。
しかし、作り手側はそうはしなかった。
登場人物たちに「次へのステップ」を踏ませることで、
彼ら彼女らの未来を別の方向性へと開かせていくことで、作品の「結び」とした。

さぞや苦渋の決断であったことだろう。
しかしだからこそ、この結末は素晴らしいのだ。
登場人物たちと真剣に向き合い、彼らの将来を誠実に考えている証拠なのだ。


自分がもしこのシリーズの作り手側だったとして、
果たして愛着のあるキャラクタたちに、あの結末を用意してやれるか? と言われれば、
……多分、出来ないだろう。

だって、けじめとか、つけるの怖いし難しいし大変だし。
実際、超逃げて暮らしてきたし。
連絡の取れなくなった(取らなくなった)人とか、超いるし。
携帯の電話帳にはメーラーダエモンさんの方が多いし。

だからやっぱり、けじめをつけた主人公たちは、偉いのだ。
塵芥代表の私よりも、何億倍も偉いのだ。



俺の妹がこんなに可愛いわけがない

この作品の1巻の出来の素晴らしさは、言うまでもないだろう。
私が同様に愛してやまない、谷川流先生の『涼宮ハルヒの憂鬱』と双璧を成す、
その作品の方向性は違えど、「凄いものを見た!」と感じさせる魅力に溢れた一冊だった。

現実に置き換えれば、世にもくだらない問題で悩んでいる主人公たちではあるが、
しかしそこに人の尊厳にも関わる重要さを見出し、真剣に悩み、ぶつかっていく主人公の姿を見たときに、
私は思わず涙してしまったものだ。


いや、本当に泣いちゃった。
多分三十歳になってたと思うけど、泣いちゃった。

だって、
「妹がエロゲー好きだけど、父親に取り上げられちゃう助けて」って問題ですよ。
これをリアルで聞いたら「あー、うん、そう……」としか言えないですよ。


しかし、そこにちゃんと向き合って、解決までを描き切って見せた作り手側の熱意。
これこそがライトノベルが持つ魅力の一つであり、
ライトノベルはやっぱり素晴らしいな、と改めて惹きつけられたわけである。


長々と纏まりのない文章になってしまったけれど、
俺の妹がこんなに可愛いわけがない』という作品を、全12巻、計5年間に渡り続けてくださり、
大好きなキャラクタたちと一緒に過ごさせて頂いた伏見つかさ大先生に、
ありがとうございました、と言いたかったわけなのである。

伝わらないと知りつつも、言いたかったのである。


伏見つかさ先生、お疲れ様でした。