映画『パシフィック・リム』がいかに素晴らしいかについて

ギルレモ・デル・トロ監督の映画『パシフィック・リム』を観て来た。

溢れ出ていた。
溢れ出まくっていた。


この監督は子供の頃、日本の特撮映画や怪獣映画を観て過ごしてきたらしく、
今作はそんな彼のロボット・怪獣に対する思いが詰まって溢れてこぼれまくっていたのだ。


ストーリーは実に単純明快で、

怪獣が環太平洋(パシフィックリム)から襲ってくる!

ヤバイ! こうなったら対抗するためにロボットで応戦だ!

怪獣が続々出てきてキリがない! 出てくるところを破壊だ!


これだけ。

いわゆる「宇宙人襲来モノ」の王道プロットで、例えば『インデペンデンス・デイ』なんかと重なりまくりなわけだけれども、
しかしこの作品で着目すべきところは、対抗策である兵器が"二足歩行の巨大ロボット"である、というところに尽きる。

なぜ、二足歩行である必要があるのか?
答えは一つ。それがロマンだから!


そう。
この映画には、日本の特撮映画、ロボットアニメに対するロマンで溢れているのだ。
例えばどんなところかと言うと、


○主人公とその相棒、菊地凛子が操るロボット(以下、イェーガーと呼称)「ジプシー・デンジャー」は
 コックピットが分離されていて、
 それが頭部に嵌ることによって搭乗・操縦が可能となる。

これは勿論、マジンガーZパイルダー・オン! 
映画館でこれを観たときには思わず笑顔になってしまった。

○これらのイェーガーを操縦するために、
 搭乗者自身がイェーガー内で実際に「動く」必要がある。
 その動きをそのままフィードバックして、イェーガーの行動に繋げている。

これは例えばGガンダムを髣髴とさせる。
イェーガーが各国に存在し、国の雰囲気を背負っている所もGガンダムっぽい。
イェーガーファイト、レディーゴーなのだ。

○操縦者一人では、操縦者自身に過度の負担が掛かるため、
 二人乗りにし、それぞれの神経をシンクロさせるシステムを取っている。

一つのロボットを皆で動かすと言えば、戦隊モノの殆どがそうであり、
また、巨大変形ロボットシリーズもそうだ。
二人で乗り込むといえば、銀河漂流バイファムのネオファムがそうだし、
ファイブスター・ストーリーズのファティマなどもそれに相当するかも知れない。
最近ではエヴァンゲリオンにおけるシンジとカヲルが、
同様の方法でロボットを操縦していた。

○ロボットのダメージが、そのまま操縦者へのダメージへと繋がっている。

これも、最近ではエヴァンゲリオンにて採用されていたアイディアだ。
本当にその必要があるのか結構疑問なのだが、見ている側が「エグそう!」と思うことが大事なのだ。

○それぞれのロボットには必殺技と呼ぶべき兵装があり、
 それを使用するために技名を叫ぶ必要がある。
 ちなみに「ジプシー・デンジャー」はエルボーロケット。

翻訳では「ロケットパンチ!」と叫んでいた。言わずもがなであろう。
ただ、肘についたジェットを利用した加速をつけたパンチだから、
実際に腕は飛びはしない。
飛んでしまったらその後戦うことが困難であるから、実に理に適っている。


そのほか、ロボットを空輸する際に数機のヘリコプターから伸ばしたワイヤーで吊ることで運搬をするのだが、
ここでパトレイバーを想像した人物も少なくは無いだろう。


ざっと思い出しただけでも、これだけの共通点が認められる。
つまりこの映画は

「俺たちの大好きなヤツを海外の監督が超予算で創ってくれたぜ!」

ってことなのだ!


更に、これだけでは終わらない。
その吹き替えを担当した声優の豪華なこと豪華なこと。


主役の杉田智和さんをはじめ、
林原めぐみさん、玄田哲章さん、古谷徹さん、三ツ矢雄二さん、池田秀一さん、千葉繁さん、浪川大輔さんという錚々たる顔ぶれ。

分からない方に分かりやすく説明すると、

林原めぐみ綾波レイエヴァ)、クリス(ガンダム0080
玄田哲章 :コンボイトランスフォーマー)、スレッガー、ドズル(ガンダム
古谷徹  :アムロガンダム
三ツ矢雄二:葵豹馬(コンバトラーV)
池田秀一 :シャア(ガンダム
千葉繁  :シバシゲオ(パトレイバー)、メガトロン(トランスフォーマー
浪川大輔 :アル(ガンダム0080

という豪華なラインナップ。
全部ロボットもので説明しようとしたから、より分かり辛くなっている感もあるかもしれないが、
それはもう知ったことではない!

先日も記したが、これはおそらくギルレモ・デル・トロ監督自身が依頼したと言うわけではなく、
日本のキャスティング事務所が、まさに「空気を読んで」人選したのであろう。

分かっている、としか言いようが無い。

アイドルやら流行の芸能人が声をあてて、集客は成功しようとも吹き替え映画を台無しにしている昨今、
こんな豪華で渋い面々を揃えるだなんて、まさに英断なのである。

古谷徹さんと三ツ矢雄二さんの掛け合いなんかは、もう笑いすぎて涙が出てしまう。


そして、対する怪獣の造詣も、日本の怪獣代表であるゴジラの流れを汲みつつ、
超人ハルクぽさもあったりなんかして、
実にワクワクする姿をしている。

そんな怪獣とロボットが「殴り合い」をするというのだから、これはもう楽しくないわけが無いのだ!


日本人なら、ロボットアニメや特撮ものを見て育ってきた「男の子」ならば(女でもあえて男と表記する)、
映画館に観にいかない訳には、いかないであろうことは言うまでも無い。


お祭りなのだ!
東映マンガ祭りならぬ、デルトロ・ロボット祭りなのだ!


これを観にいかずして、何が日本人なのだろうか。


エンドロールの最後、謝辞と共に表記される本多猪四郎さんの名前を見て、
我々はこれからの様々なことを考えなければならないのだ。