吾輩と、猫である④
猫を迎えるためにすべきこと。
それが何なのか、具体的にはさっぱり分からなかった。
とにかく猫用のグッズが必要である。
吾輩の家には、吾輩用の物しかないのだ。
吾輩はの部屋は、何もかも1人用である。
誰を招き入れることも無かったから、必要最低限の物しか無いのだ。
2本並んだ歯ブラシはどちらも吾輩のものだ。
タンブラーも2つあるが、これはセット商品である。
ベッドも1つだが、一応、何かしらを想定してセミダブルにしている。
このぐらい広いと、隙間が沢山あるから、いくら寝返りを打っても落ちないので満足である。
この部屋に2匹の猫が来ることになる。
幸いにも、吾輩の家には至る所に物を置く場所があるので、
猫用のグッズは置き放題である。
吾輩は猫用のグッズを飼い始めることにした。
しかしながら、吾輩自身が必要最低限の物で生活しているわけであるから、
猫もまた、とりあえずは必要最低限で充分であろう。
まず何よりも必要なのは、猫用のトイレである。
これは猫の数プラス1つは用意しておいたほうが良いらしい。
猫は綺麗好きであるので、トイレが汚れていた場合ストレスを感じてしまうようだ。
猫のトイレは色々と種類があった。
あれも良さそうだ、これも良さそうだと調べ、3つ購入する。
そのほか、ケージ、食器、給水器、爪とぎ、キャリーケースなど、
必要なものは結構あるようだ。
必要なのであるならば、揃えなければならない。
吾輩はそれら全てをインターネットで購入した。便利な世の中である。
それと、猫は高いところが好きなようであり、
また、運動不足解消のためにも用意した方が良さそうである。
しかしながら、まだ子猫である。
背の高いキャットタワーでは怪我をする恐れがあるとのことだ。
であるならば、それなりの低さのものが良いだろう。
吾輩はインターネットで購入した。
猫が遊べるグッズは色々ある。
小さな人形があると、猫が噛んだり蹴ったりして、ストレス解消に繋がるらしい。
吾輩はインターネットで購入した。
猫じゃらし、というものがある。
古くからある伝統的な道具だが、最近は色々と進化しているようだ。
狩猟本能を呼び覚まし、運動不足を解消出来るとのことである。
吾輩はインターネットで購入した。
猫用のベッド。
穴倉状になっており、何かあったときに逃げ込める場所にもなるようだ。
吾輩はインターネットで購入した。
猫用の爪切り、猫用のブラシ。
ツイッターで募集した意見を参考に、評価の高いものをインターネットで購入した。
現在使っているゴミ箱は、袋をそのまま使用するタイプのものであるが、
これは猫が悪戯をする恐れがある。
猫が悪戯出来ないものにすべきであろう。
購入した。
吾輩の部屋には、猫の額ほどのウォークインクローゼットがある。
ここに猫を立ち入らせるわけにはいかない。
吾輩の洋服が毛まみれになってしまう。衝立が必要だから購入した。
吾輩は微弱ながら猫アレルギーである。
空気清浄機があれば、快適な環境を作ることが出来るから購入した。
デスクの下に良い感じの隙間がある。
そこに置くふかふかのベッドがあれば絶対使ってくれるだろうから購入した。
ベッドタイプの爪とぎが良い感じだったから買った。
猫が良く水を飲む陶器の水飲みがあるとツイッターで教えて貰ったので買った。
食器を置くマットがあると良い感じだ。
部屋の角に置けるタイプの爪とぎがあれば、壁で爪を研がないだろうか?
猫用のヒーターがある?
とりあえず買う。
さて、色々と買ったわけであるが、
これで必要最低限の物は買い揃えることが出来ただろう。
吾輩は妙に満足していた。
準備は万端であり、非の打ちどころが全く無い。
今にして思うことだが、さあ見ろ、吾輩は不可ではないのだぞ、と世に知らしめたかったのかもしれない。
やがて、ぞくぞくとそれらの商品が届き始める。
それはもの凄い量だった。
引っ越しでもしてきたかのように、大量の荷物が運ばれてくる。
吾輩がこの家に引っ越した時よりも荷物の量が多い気がした。
毎日毎日、違った商品が届くのだ。
今日届き、明日も届く。
なんなら届いた商品を開封している最中に届く。
まるでここは、賽の河原である。
奇しくも吾輩の筆名が賽助であるが、なかなか笑えない状況だ。
玄関は開封した段ボールで一杯になり、
未開の地、アマゾンを開拓するが如く、それらを振り払わねば通れなくなった。
奇しくもamazonで頼んでいるのだが、これは笑えないので無視して大丈夫だ。
それら全てを開封し、部屋に設置していく。
吾輩が生活していたスペースがどんどん猫用品に浸食されていく。
この感じで行くと、吾輩の生活圏が今までの半分くらいになってしまいそうな計算だ。
……まあ、こちらは1人。向こうは2匹である。
多数決ならば負けている。
しかし、こちらが家賃を払っているわけだから、
もし裁判になったときに、半分は吾輩の場所であるという主張は通るであろう。
気になるのは、猫のトイレが4つあることだ。
何故4つあるのか、吾輩にはちょっと理解出来なかった。
まず3つのトイレが届いた。
そのうち2つ、同タイプのものを部屋の隅に設置し、別タイプのトイレはケージの中に置いた。
そこまでは良かったのだが、
更に1つ、吾輩の家にトイレが届いたのである。
吾輩は頭を抱えた。
1つの家にトイレが4つだなんて、ちょっと寂れたサービスエリアより多いではないか。
その分並ばなくて済むから、人間の女性ならば大喜びであろうが、
生憎来るのは猫のオスばかりだ。
最低限の物しか揃えていない筈であるのに、
一体何故こんなことになってしまうのだろうか……。
吾輩は首を傾げた。
どんなトイレが良いか、保護主さんにあれこれ聞いたことは覚えている。
その時に「このトイレ良さそうなのですが」と尋ねたものが、追加で届いたことになる。
吾輩ひょっとして、良いかもと思ったものを脊髄反射で買ってしまうタイプなのであろうか。
少し不安になった。
これではまるで、初孫を喜ぶ親の如しだ。
はしゃいで色々と買いすぎて、結果子供らを困らせる感じのやつではないか。
いや、吾輩は決してそんな感じではない。
そもそも子供はいないし、両親の孫は浦和レッズの選手である。
猫のトイレは、あればあるだけ良いのだ。
そんな感じのことがどこかに書いてあったはずだし、無かったら吾輩が記事にする。
しかしとりあえず、この4つめのトイレは、
保護主さんが来るときには、クローゼットの中に隠しておくことにした。
決して、ちょっと恥ずかしかったからではないことをここに明記しておく。
それともう1つ困ったことがある。
猫用トイレに巻いておく『猫砂』と呼ばれるものがあるのだが、
吾輩はこれを木製のペレットにした。
(岐阜から届くとなると、これはなかなか入手が困難ではないだろうか?)
そう考えた吾輩は、これを2袋ばかり頼んだのであるが、
1袋が10キログラムあり、それが2つ届いたわけである。
保管場所に困った吾輩は、とりあえず玄関に2袋を並べて置いてみたが、
まるで川の氾濫を堰き止める土嚢である。
堰き止められるのは勿論吾輩だ。
幸い、吾輩は自炊をしない主義であるからして、
1袋は米を保管する場所にしまえる。
もう1袋はクローゼットの中に置くことにした。
クローゼットはますますウォークイン出来なくなったが、
そもそも衝立を置いたおかげでその機能は失われているのだから問題無かった。
全ての段ボールを開封し、商品を設置。
多量の段ボールをゴミに出し、
保護主さんがくつろげる用の椅子を購入し、
スリッパを2足追加で注文。
全ての準備は整った。
不足している物は、もはや無い。
あれば買えば良いだけのことだ。
ここに猫が来るのかと思うと、吾輩は急にソワソワとしてきた。
まだ誰もいない空っぽのケージなどを眺めては、
一体どんな感じになるのだろうと想像する。
ちゃんと使ってくれれば良いのだが……。
ともあれ、あとは猫の到来を待つだけである。