ある告白
気が付けば前回の日記から、三ヶ月ほど放置していたことになる。
その間、ロシアに行ったり、新しい職に就いたりと色々な事があったのだが、
その一切を文字として残さなかった。
それは何故か。
怖かったからだ。
僕も一応、今夏辺りに本を出版する身であり、
つまりはいずれ近いうちに、物書きの端くれ、端くれの土くれ、土くれ小説家なわけだ。
土くれとは言え、物書きを標榜するわけで、
私の書いた文章は、物書きの書いた文章として世間様に見られることになる。
例えば僕が映画を観たとして、
その日記を書き上げたとして、
なんか立派なオチが必要なのではないか。
例えば僕が家の鍵を忘れたとして、
困ったなあと頭を抱えたとして、
凄いトリックを使って密室の自宅に侵入しなければならないのではないか。
例えば夕飯にバナナを食べたとして、
それが美味しかったとして、
読んだ人が一緒にバナナを食べたつもりになり、ついでにパプアニューギニアの熱帯雨林に飛び込んだ感覚を与え、そこで現地の部族が大切にしている像を壊してしまい、追われ、捕らえられ、磔にされ、しかしすんでのところで昔馴染みの彼女(過去に裏切られ、お目当ての財宝を取られた経験アリ)が助けに来るという、
そんな文章を用意せねばならないのではないか。
そんなの書けない。
書けるならもう五冊くらい本出してる。
とまあ、こんな感じで日々思い悩み、
書いては消し、書こうと思っては筆を置いた。
今回も恐らくそうだ。
もし、この文が誰かに読まれているとすれば、
それは何か不可解な力が働いたか、
あるいは巧妙なトリックが用いられたか……。
囚われた愛しい人の命を助ける為に、
引き換えとしてやむなく公開したパターンも捨てがたい。
どれでも良いので、そういう事にしておいてもらえると、助かります。